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復原力のひみつ

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1993年10月にカナサシ豊橋工場で竣工した乗用車なら5500の積載能力をもつPCC 「COUGAR ACE」です。商船三井 工務部の基本設計によりカナサシが建造しました。(船舶年間1994より)


20081124000.jpg 図解船の科学より
2006年7月。アラスカ沖で嘘のように横倒しになっている「COUGAR ACE」です。この時点で最大80度近くまでの傾斜になっています。当時、宇品でマツダのSUVや乗用車 約4000台をつみこんで北米に向かっていた途中の事故です。ホールド内部では、車は一台一台、ラッシングされているので荷崩れすることはありません。

わたくしは、この状態をみて、愕然となりました。
そう、完全に横転していないのです。しかも数日で自力で姿勢を戻しました。科学の勝利です。

横転直後、60度前後の傾斜です。
060728201_p003.jpg

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急激な姿勢の破綻であったため、救命艇で脱出することもできなかったようです。

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救助にあたった米国のコーストガードの救助隊員1名が救助活動中に落下により殉職しています。

本船はこのあと自力でバラストを注水し、体制を立て直し、バンクーバーに入港し、車輌をすべておろしました。全部、廃棄したらしいですが。くるまのバネがのびてるだろうっていう理由で。


横転の理由は「バラストポンプの操作ミス」です。この後、たてつづけにおきる、商船三井の事故に共通する船長までが外国人という体制をやっと見直しました。世界最高水準の操船技術をもつといわれる日本人船員は誇りですね。

船の性能で最も重要な復原性能の世界の安全基準はなんと日本発です。そう、あの青函連絡船 洞爺丸の大惨事の教訓がいまもいきているのです。


造船において日本は膨大な建造量と経験値をもっています。
でも、いまだに経験工学の要素が多分にあるのが嬉しいですね。 特に、復原力が本当に計算通りなのかってきっと設計した本人が一番不安だと思います。

下の画像はMHI 神戸造船所における 青函連絡船の代表格「十和田丸」の復原に関する試験です。

な、な、なんと、ヘルメットのおじさんたちが、ヘルメットのおじさんの号令で十和田丸の舷から舷に走っています。これを繰り返し、船に動揺をあたえ、動揺周期、減衰時間などを計測し机上計算と符合するか検証します。
20081124000_2.jpg
船の科学 VOL22 No9より

復原力の鍵を握る、重心と浮心、メタセンター高さは目に見えないので不思議がイッパイです。
あしたのジョーの基地がある泪橋をくぐる「ぽんぽん船」風に描かれた船は東京地区に多く存在する平水域限定の貨物船です。東京湾沿岸での積荷を川をのぼって搬送します。いまも鋼船になって、セメントやへどろ、土砂、重油などをはこび川を遡上しています。独特の船型をもっています。

この平べったい船は、一見安定が良さそうです。実際、安定がよく、少し動揺しても短時間でもとに戻ろうとします。これがすぎると乗り心地がわるくなります。港でこのペッタンコの船が空荷状態でひっぱられている様を凝視するとこれまた驚きます。

幅が12mほどあっても、パタパタパタパタと洗面器が波間に揺れているような揺れ方をしているのは異様です。

重心位置が低く定性がよすぎる証ですが、それは最初だけで、ある傾斜角から、一挙にもとにもどろうとする、「ねばり」がなくなります。

それではここで、どこの港でも見れる艀(バージ)の断面でしらべてみましょう。
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上向き青色矢印が浮かばせようとする力 「浮心」です。排水量の中心部分にいつもいます。
下向き赤色が重心です。基本的に場所はうごくことはありません。時化の中で海水を大量にかぶったとか、荷崩れした場合はうごいてしまします。

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ちょっと傾斜するだけで、こんなにメタセンターがあがります。メタセンターのメタはトイレット博士のメタクソ団のメタと同様で、上位をしめす接頭文字です。上にぽつんとかがやく黄色い丸がメタセンターです。浮心と中心線が交わるところにいつも現れる点です。図では微妙に交わっていませんが、まじわっているように見てくださいね。この黄色い点が重心より上にある間は安心です。浮心の場所は波の動揺で没水状態がかわるので厄介です。

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赤色と青色の間の「両やじるし」の長さがのびてきました。これがおおきいと、元にもどろうとする力にも粘りがでてきます。GZ梃(じーぜっとてこ)と呼ばれています。

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水面が舷いっぱいになっています。船にとって最大のピンチです。わたしはカイシャでいつもこんな状態でいます。

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甲板(コーハン)部分が水面につかってしまいました。
この状態でも水密が完璧であれば復原力はまだまだありますが、実際には貨物ハッチや居住区のハッチ、バラストの空気抜き管、チェーンホースなどから浸水がはじまります。

これをみると、幅のある船、しかも重心もしっかり低くても、意外に浅い傾斜角度で破綻するのがわかりますね。これでは40度以上の傾斜になる大洋はわたることができません。


重心位置を比較的上位に放置した場合をみてみましょう。
図はクーガエースに近いサイズのPCCの中央断面です。

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傾斜がはじまりました。重心はG メタセンターはMです。M点はいつも一番上にないといけません。でないと転覆しますし。

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先のバージ同様、M点がおおきくあがっています。余裕の復原力のようですね。ただ、先のバージとちがって、左右にのびる両矢印(GZテコ)が短いままです。そう、元に戻ろうという粘りがないことを示してします。わたしのカイシャでの仕事に対する尺度に相通じる物があります。重心が上にあるとこれだけねばりが無くなるのですね。私事ながらわたくしも頭がおおきいので、相通じるものがあります。

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急激にM点がさがってきました。MはモチベーションのMではありませんが、やるきが無くなり「やってられるかい!」って感じです。

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さらにリーマンのモチベーションのようにM点が下降します。

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ここで、がんばることをやめてしまう瞬間です。M点とG点が対峙している図です。もうひとりの自分とむきあい「もう、がんばるの。やめよ。」「うん」とかいいあってる図です。

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実際には45〜50度程度の傾斜で横転、転覆、するようなヤワな設計はされていません。
弊社の場合は35度が限界のやわらかな設計です。しんどいことに立ち向かわない思想がこんなところにまで。かしこ

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負のスパイラル とまらず の図です。 がんばりの指標 メタセンタはメタじゃなくなり、重心であるG点より下になり、元にもどろうという「ねばり」のもとGZテコもテコじゃなくなり、転覆に加勢してるし、わやくちゃの図です。

1974年高知県の某造船所の進水式の出来事。拍手喝采をうけ船台をすべり進水すると同時に横倒しになった小型の自動車専用船(PCC)がありました。確か1970年建造の泉汽船の日精丸の同型船(LPP87m Bex14m GT1500t)だったと思います。この事故は、工事用の機材を船内においたまま進水したため、重心位置が進水計算時とことなり、バラストのない、ただでさえ頭でっかちのPCCはあっという間に横倒したようです。まさに上図のようになってしまいました。お祝いの紅白の横断幕を船首にまき、くす玉から5色のテープを海面に散乱させながら右舷半分が海水につかった横倒しの姿は痛々しい限りでした。


冒頭にご紹介した、 クーガエース はこのような状態だったのしょうか。

ちがうと思います。
「思う」というところが、科学的でないですね♪
そう! 復原力は残っていたに違いありません。ということは重心位置はずっと下にあったままなのです。なぜなら、自力で姿勢を正すことができているからです。

きっとこういう図だったと思います。
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重心位置が海面とほぼ同一という低重心構造です。
動揺をうけてもM点たかく、なんといってもねばりづよさを示す GZテコがはばひろいですね。

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傾斜角が大きいために没水容積がへり浮心位置も居場所がなくなりM点もさがってきました。

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最大のピンチ状態です。ただ、まだM点は上にあり、復原しようとする強い意志をGZテコの両矢印がしめしています。


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この図では、放っておいても復原する図ですが、クーガエースの場合は、残念ながら海水バラストを放出しきったためにG点が一時的にあがっています。
しかし、この船は従来、このGMの状態で、北太平洋をよこぎっていたのです。

さらにベンチレーターや居住区、空気抜き管からの浸水がない!とした場合さらに傾斜が加わったとしても

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M点が上位じゃなくなっても、GZテコがまだがんばろうとしているではありませんか。

復原力は謎がいっぱいです。
ちなみに、復原力の要であるG点とM点の高さを船に乗りながら概算値をしることができます。

((0.8×水線面の幅(単位=m))/ローリング周期(単位=秒))の二乗


人間に置き換える場合、係数0.8が0になります。がっかりしますね。


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